【本当は“愛の物語”】「罪と罰」の魅力と凄さを全力でご紹介!【ドストエフスキー】

文学・小説

ドストエフスキーの最高傑作の一つとも称される「罪と罰」

後世のあらゆる作品にも多大な影響を与えている世界文学の名作中の名作です。

この作品を大雑把に分類すると「クライムサスペンス」なのですが、そこはさすがドストエフスキー。

ただのサスペンスでは終わらせません。

聖書の「ラザロの復活」や「楽園追放」を引き合いに出して、二人の男女の復活の物語が描かれます。

読み終えた後にはしっかりと感動を味わうことができます。

しかしそんな「罪と罰」、「カラマーゾフの兄弟」や「悪霊」に比べるとまだ読みやすいのですが、

それでもロシア文学独特の冗長な語りや呼称の複雑さが読む際のハードルになってきます。

(実際読んでいると、ラスコーリニコフ、ラズミーヒン、ドミートリイ、ロージャ、ルージンあたりがごっちゃになります笑)

それでもここを乗り越えてもらえれば、とてつもなく面白いので、間違いなく読み切る価値があると言い切れる代物です。

そこで今回は、この「罪と罰」の魅力と凄さをできるだけ簡潔に紹介していきたいと思います!

なるべくギュッとしてお届けできるよう全力を尽くそうと思うので、お付き合いいただければ幸いです。

それでは早速いきましょう!

「罪と罰」のあらすじ

独自の犯罪哲学を持つラスコーリニコフ(ロージャ、ロジオン・ロマーヌイチ)は、その思想に従って金貸しの老婆を殺害する。

その後、捜査の手に追われながら、彼は自らの行動に対する良心の呵責や罪悪感に苦しむことになる。

そんな中で出会ったのが家族のために自らを一身に捧げるソーニャ(ソーネチカ、ソフィヤ・セミョーノヴナ・マルメラードワ)。

彼女との出会いをきっかけに、ラスコーリニコフは徐々に自らの罪に対する考えを変化させていく。

そんな彼の内面の葛藤や心の変化が物語を通して掘り下げられながら、最終的に自首するまでが描かれます。

「罪と罰」の魅力と凄さ

圧倒的な犯罪者の心理描写

登場人物の心理描写が狂気的に上手いことで知られるドストエフスキー。

この手腕によって犯罪者の心中が描かれることで、読んでいてものすごく真に迫るものを感じることができます。

犯罪に向かう際の極限状態の心理や殺人後に関わる人全てへの疑心暗鬼、そして一人でどこにいても逃げ場がない感覚。

元々の知能の高さから来るものも相まって、どんどん精神的に孤独になっていくラスコーリニコフが描かれます。

また事件に際して金目のものを取れなかったり、謎に犯行現場に舞い戻ったりと、持ち前の思考力を欠いた行動ばかりしてしまうのも印象的。

そんな中で警察や司法権力のポルフィーリーの捜査によって、どんどん追い詰められていく様子も、緊迫感満載でとってもスリリングです。

このドキドキハラハラは作者の筆致があってこそのものなので、他の媒体では決して味わえないものと言えます。

こんな一連のラスコーリニコフの様子を見ていると、やはり真っ当に生きなければいけないなと再確認させられます。笑

当時のロシア社会の”貧困”も描く

こちらもドストエフスキーの特徴の一つである、貧困層の描写も存分に感じることができます。

農奴解放などの改革後にあらゆる思想が乱立する混乱の中、いたるところで犯罪や自殺が増加して治安の悪化した都市。

そんな中で生活もままならないほどに困窮した者たちが、痛々しさすら感じさせながら詳細に描かれます。

「貧乏は悪徳ならず、こいつは真理ですな。‥でも、これが極貧となったら‥こいつはもう悪徳なんでございますな。」

という作中の言葉がとても印象的。

ソーニャの家族たちは貧しさゆえに身なりも整えられず日夜仕事に追われる。そして心を卑屈に歪めたり、教育も受けられないことも影響して、見栄やその時の憂さを晴らすために非合理的な金の使い方をしてしまう。

そんな「貧すれば鈍する」は、現代にも通ずるものがあります。

さらに貧困による窮乏が、ラスコーリニコフの犯罪やソーニャの「堕落」の直接の大きな要因になっているのも見逃せないポイント。

またこのような状況に対して、キリスト教は具体的な救いをもたらさず、警察や公権力は貧者に冷たく描かれるのも印象的です。

この作品では、そんな貧困や行政も含めた当時の社会状況を肌で感じることができます。

「超人理論」

「罪と罰」を語る上で絶対に外せないのが、ラスコーリニコフの独自の犯罪哲学と思想。

それらをざっくり表すと、以下の通り。

 

  • 多少の罪はそれよりも大きな善行で帳消しにすることができる。
  • 人間には凡人と非凡人の二種類がいる。前者は種や現状を維持存続させるためだけの存在で、後者は既存の体制を乗り越えて、人類を推し進める存在。
  • 知能と力がある者は人類のために、持たざる者たちの権利を奪ってでもそれらの上に立って導いていくべき。

 

これらを強欲で悪徳ばかりの老婆が幅を利かす一方で、優れた才能を持ちながら虐げられて低い地位に甘んじている自分の今の状況に当てはめて、自らの殺人を正当化しようとします。

一見するとやばい思想なのですが、これがナポレオンやマホメットなどの歴史上の例を出しながら主張されるので、読んでいてあながち間違いではないのかもとも思わされます。

ことごとく合理的な考え方ですが、自然なあり方としては違和感しかないのが印象的です。

しかしいかんせん、この独特の理論が「罪と罰」をとても面白くしています。

理論武装の落とし穴

自らの理論を絶対視しながらも「人間の天性」からは逃れられない様子が描かれるのも見所の一つ。

頭では自分が正しいとわかっているのに、いつまでも罪悪感に苛まれたり、犯行にまつわる幻覚や悪夢に悩まされるラスコーリニコフ。

個人的な高慢や虚栄心に苦しむことにもなります。最終的には自分が天才になりうるかを確かめるために殺人をしたとも認める始末。

(計画になかった妹の登場に際して、自衛の「本能」のまま彼女を殺してしまったり、最後に自殺を選択できないのも印象的)

彼は罪の意識を一人で抱えきれずに警察に吐露しそうになりながらも、最終的には純真ながらも互いに「一線を越えてしまった」と感じるソーニャに全てを告白することになります。

彼女とのやり取りでは、キリスト教的に「大地に接吻して償う」ことで、全てを許してもらって楽になろうとする内面の揺れ動きも描かれます。

またスヴィドリガイノフという自らの情欲の赴くまま、既存の道徳をことごとく踏みにじっていく存在とのやり取りも大事になってきます。

この異様な存在に今の自分自身を重ねて嫌悪感を抱いてしまうことからも、ラスコーリニコフは自らに自信を持てなくなってきます。

法律は正当に罪を罰せられるのか

合理的な存在である法律に疑念の目がかけられているのも「罪と罰」の面白い点です。

ラスコーリニコフへの疑いがありながらも、人間の不合理さゆえに確固たる証拠が無いから法では裁けないというもどかしさ。

一方でソーニャは一目彼を見ただけで、はっきりと罪を背負っていることを見抜くのも印象的です。

そしていざ有罪判決が下される際も、外面的な事実だけでしか犯罪者の行いを判断できないあやふやさが残ります。

実際ラスコーリニコフは(ただ自らの論理を信じていただけなのに)

反抗に際して精神錯乱があったやら、犯行を否定しないから情状酌量の余地があるということで「懲役7年」という、殺人にしては軽すぎる刑罰が与えられます。

そんな一連の様子からは、今の時代でも絶対視されがちな法律について違った視点を持つことができるようになります。

(同じく合理的に人間を説明しようとする医学に社会主義、損得勘定ばかりのルージンなどが否定的に描かれているのも印象的です)

人間を真に“復活”させるもの

結局罪の意識に耐えられずに司法の手に自らを委ね、刑務所で懲役に服すことになったラスコーリニコフ。

その間も彼は自らの理論を疑うことなく、刑罰が課せられても思想に見合う育児がなかったと考えて反省の念など起こしてはいませんでした。

かつて聞いたキリスト教や聖書の説法にもどこか茶番じみた印象を抱いて、はねつけていたラスコーリニコフ。

そんな彼の心を変えたのは、いつまでも純真に自らを思ってくれるソーニャの「愛」でした。

それまで頑なに拒み続けた彼女が差し伸べてくれる手。その優しさやありがたみにようやく気づいてからは、彼の中で全てが変わっていきます。

他者からの愛を受けた上で、自らも愛を以て罪を償っていくことを決めてからは、長らく悩まされた苦悩や孤独からも回復し、幸せや周りの人との繋がりも獲得していく事になります。

一方のソーニャも宗教に救いを求めても叶いませんでしたが、ここで自らの愛が受け入れられることで、彼女自身も内面的にようやく救われることになります。

ここからは、しっかりと自らを愛した上で生きていくことが幸福な人生には必要不可欠という作者の主張も見て取れます。

総じて結末までの一連の流れからは、神を盲信するのでなく、理論を固めるでもなく、信仰に基づく愛を以て生きていく。

そんな「ドストエフスキー哲学」の中核を感じることができます。

これこそが人間を真の意味で「復活」させる。

最後にはそんな人間性への大きな希望を見せてくれながら、物語は締めくくられます。

まとめ

今回は、ドストエフスキーの「罪と罰」の魅力と凄さを紹介してきました!

エンタメ作品として楽しめながらも、社会や哲学的な要素も入れてくる「ドストエフスキー」を存分に感じることができる傑作です。

「愛が大事」という割とありきたりな結論ですが、そこに至るまでに独自の理論や内面の葛藤を描き切るためにここまで凄まじい説得力を持つのでしょう。

本著を魅力的に感じたら、この作品の前日譚とも言われる「地下室の手記」や、さらに思想を発展させた「悪霊」「カラマーゾフの兄弟」も追っていただければと思います。

「本作についてはまだまだ深掘ることができて、これはゆうに新しい主題になりうるものであるが、しかし本篇はここでひとまずお終いだ」

この記事が、皆さんが「罪と罰」の理解をより一層深め、この作品をさらに楽しめる一つのきっかけとなれば幸いです!

 

(訳がたくさんある「罪と罰」 一応その難しさ順に並べてみたので、選ぶ際の参考にしていただければと思います)

「漫画版」 全体像を掴みたい時に!

一番新しい「亀山版」 最も平易な訳で読みやすいので、あまり文学に馴染みがない方におすすめ。

一番オーソドックスな「工藤版」 迷ったらこれを選んでおけば間違いなし。

一番クラシカルな「米川版」 より重厚な雰囲気を楽しみたい上級者向け。

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自然が多い田舎で日々文章を書いて暮らすデカい男(Z世代)

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